鳥はなぜ電線に止まっても感電しない?その理由を科学的に解説

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私たちの日常生活で、電線にずらりと並んで止まっている鳥たちの姿を見かけることは珍しくありません。特にスズメのような小さな鳥が行儀よく並んでいる光景は、とても可愛らしいものです。しかし同時に、「電線に触ると危険」と教えられてきた私たちにとって、なぜ鳥たちは感電することなく平気な様子で止まっているのかという疑問は、大人でも答えに困ってしまうことが多いでしょう。

街中の電線には、家庭で使われる100ボルトよりもはるかに高い6600ボルトもの高電圧が流れていることが一般的です。このような強力な電気が体の中を流れることは、人間にとって非常に危険であり、最悪の場合は死に至る可能性もあります。それにもかかわらず、鳥たちが何事もなく電線を止まり木代わりにしているのには、電気の基本的な性質と鳥の電線への止まり方に秘密があるのです。

この現象を理解する鍵となるのは、「電位差」と「抵抗」という電気の重要な概念です。本記事では、電気の基本原理から始まり、鳥が感電しない具体的な理由、例外的に感電してしまうケース、人間との違い、そして電力会社が行っている対策まで、この身近な疑問を科学的に解き明かしていきます。

目次

なぜ鳥は電線に止まっても感電しないの?電気の基本原理から解説

鳥が電線で感電しない理由を理解するには、まず電気の基本的な性質を把握することが重要です。電気の流れは「水の流れ」に例えるとわかりやすく説明できます。

電位差がほぼゼロだから

鳥が感電しない最大の理由は、両足で同じ一本の電線をつかんでいることにあります。電気は電位の高いところから低いところへ流れる性質がありますが、鳥の両足が同じ電線上にある場合、その間のわずか数センチメートルの距離では電位差がほとんど発生しません

たとえその電線が6600ボルトの高圧線であっても、鳥の体の小ささ、特に両足の間隔がわずかである場合、その間の電圧の差は限りなくゼロに近くなります。電気が流れるためには、プラス極からマイナス極へ、つまり電位の高いところから低いところへ電気が「行って帰ってくる」ための完全な通り道(回路)が必要です。一本の電線に止まっているだけでは、鳥の体は電気の通り道としての回路を形成しないため、電流が鳥の体を流れることはないのです。

電気は抵抗の少ない道を選ぶ

もう一つの重要な理由は、電気の「抵抗の少ないところを流れようとする性質」にあります。電線は銅などの電気を効率的に流すための材料で作られており、非常に電気抵抗が低くなっています。一方、鳥の体は電線に比べて電気抵抗がはるかに大きい物体です。

このため、電気はわざわざ抵抗の大きな鳥の体内を通ろうとはせず、抵抗がはるかに低い電線の中をそのまま流れ続けます。ちょうど川の水が岩などの障害物を避けて、より抵抗の少ないスムーズな道を流れるのと同じ原理です。結果として、鳥の体にはほとんど電流が流れないため、感電せずに済むのです。

絶縁体カバーの保護効果

さらに、街中にある電線の多くは、金属部分がむき出しにならないよう、電気を通さない素材(絶縁体)でできたカバーで覆われています。このような被覆材が巻かれている電線であれば、そもそも鳥の足に電気が伝わることはありません。

ただし、特に高い電圧が流れる高圧線は、多くの場合被覆材が巻かれておらずむき出しになっていることが多いため、前述の「電位差がゼロ」と「抵抗の低い経路を選択する」という原理がより重要となります。

鳥が電線で感電してしまうのはどんな時?危険なケースを詳しく説明

基本的には電線で感電しない鳥たちですが、特定の条件下では感電してしまう危険性があります。感電事故は鳥自身にとって致命的であり、時には広範囲の停電や山火事を引き起こす深刻な問題にもつながります。

複数の電線や電柱に同時に触れた場合

鳥が感電する最も典型的なケースは、一本の電線以外のものに体の一部が触れてしまう場合です。例えば、鳥が羽を広げた際にうっかり隣の電線に触れてしまったり、右足と左足で異なる2本の電線をつかんで止まったりした場合です。

このような状況では、異なる電位を持つ2つの電線の間に鳥の体が介在することになり、鳥の体を通り道として電位差が生まれ、電流が流れて感電してしまいます。また、鳥が電線に止まっていても、体の一部が電柱に触れてしまった場合も同様です。電柱は地面とつながっており電位が0Vとみなされるため、電線上の足(例えば6600V)との間に大きな電位差が生じ、鳥の体を通して電気が地面へと流れてしまうのです。

大型鳥類による感電事故

特に体の大きな猛禽類(ワシ、タカ、フクロウなど)は、しばしば電線で感電死してしまうことがあります。これらの鳥は見晴らしの良い高い場所に止まる習性があり、電柱や送電塔などの人工構造物も止まり木として利用します。

大型鳥は大きな翼を広げて電柱や送電塔の上に止まることがありますが、このとき広げた翼が電線(高電圧)と電柱(地面とつながる0Vの部分)に同時に触れてしまうと、鳥の体が電線と地面をつなぐ電気の通り道となり感電します。米国モンタナ州では2017年に、タカが電線に止まろうとした際に捕まえていたヘビが別の送電線に触れたことで、タカとヘビが感電死した事例も報告されています。

カラスの巣作りによる事故

カラスは電柱に巣を作る際に、木の枝や草木のほかに、金属製のハンガーや針金などの導電性の高い材料を使用する傾向があります。これらの金属製の巣材が電線に接触すると、ショート(短絡)を引き起こし、停電や火災につながる危険性があります。石川県内だけでも、カラスの巣が原因となった停電が年間10件程度発生しているという報告もあります。

感電死した鳥には重度の火傷が認められ、羽毛が黒く焦げていることがあります。さらに、感電した鳥が燃えながら地上に落下し、乾燥した草木などに燃え移ることで山火事の原因となる事例も報告されており、米国では年間数百万羽から約1千万羽もの鳥が感電死していると推定されています。

人間が電線に触ったらどうなる?鳥との決定的な違いとは

鳥が電線に止まっても感電しない理由が理解できたところで、「もし人間が電線に触ったらどうなるのか」という疑問が浮かぶでしょう。結論から言えば、人間が電線に触れることは極めて危険であり、絶対に避けるべき行為です。

接地(アース)との接触が最大のリスク

鳥が感電しない理由の核心は、一本の電線に止まっている限り電位差がほとんど発生しないため、回路が形成されないことでした。しかし、人間の場合、この条件を満たすことが物理的に極めて困難です。

もし人間が鳥と同じように、地面に一切足をつけずに一本の電線にぶら下がったり、綱渡りのように乗っているだけであれば、理屈の上ではすぐに感電することはありません。しかし、これはあくまで「理論上」の話であり、現実的には次のようなリスクが伴います。

人間は鳥のように器用に電線に止まることができないため、不安定な姿勢でバランスを崩し、別の電線や電柱、あるいは地面に触れてしまう可能性が非常に高いです。人間が電線に触れている状態で足が地面に触れていたり、電柱や他の地面につながった物体に触れてしまったりすると、電線(高電位)と地面(低電位、0V)の間に人体を介した「電位差」が生まれ、電気の通り道(回路)が形成されます

この瞬間に、強力な電流が体を通って地面へと流れ出し、感電事故が発生します。電位差とは電気を押し出す力のようなものですから、大きな電位差がある場所に触れると、電気は人体を電流が通りやすい導体として利用してしまうのです。

体内への電流の影響

人間の体内の血液や筋肉、内臓組織は電気抵抗が低く、電気が流れやすい性質を持っています。そのため、電気の強さや流れる時間、電流が心臓を通るなどの要因によっては、体内に電気が流れることで強い衝撃を受け、筋肉の硬直や呼吸停止、心臓への影響などにより重傷を負うか、命を落とす危険性があります。

たとえ電線一本にぶら下がれたとしても、人間の衣服は汗や湿気を含んでいることがあり、それが導電体となって電流の通り道になる可能性も考えられます。また、街中の電線には絶縁体カバーが施されているものが多いですが、このカバーが経年劣化や損傷により、目に見えないほどの穴が開いている可能性もゼロではありません。

日常生活での注意点

垂れ下がった電線を見かけた場合、あるいは凧揚げなどで電線に凧が引っかかってしまった場合でも、絶対に触らないようにしましょう。万が一、電線に異常がある場合は、電柱に記載されている管理番号を確認し、速やかに電力会社や通信会社に連絡することが重要です。

私たちが安全に電気を利用できているのは、家電製品などに設けられているアース線のような安全対策が施されているおかげでもあります。アース線は家電製品の金属部分から伸びており、コンセントのアース端子を通じて電気を地面に逃がすことで、機器の故障や漏電による感電を防ぎ、電位を等しく保つ役割を果たしています。

電力会社はどんな鳥害対策をしている?最新の取り組みを紹介

鳥が電線に止まること自体は自然な光景ですが、鳥の感電事故は鳥の命を奪うだけでなく、電力インフラに深刻な影響を及ぼし、停電や山火事といった被害を引き起こす可能性があります。このような鳥害を防ぎ、鳥の生態系を保全しつつ、私たちのライフラインである電力インフラを保護するため、電力会社や関連機関はさまざまな対策を講じています。

感電事故防止のための設備対策

最も直接的な対策の一つは、電線や通電部分に電気を通さないプラスチック製の絶縁カバーを取り付けることです。これにより、鳥が電線に触れても体が電気に触れることがなくなり、感電を防ぐことができます。日本の法律(電気設備に関する技術基準を定める省令)でも、人が触れる可能性のある電線には絶縁被覆を使用することが定められています。

電力会社は、電柱や送電塔の構造を工夫し、鳥が止まりにくくしたり、感電のリスクが高い場所(電線と電柱の間など)の空間を広げたりしています。また、鳥が止まりやすい場所に、物理的に鳥が止まれないようにするバードガードなどの器具を設置する対策も行われています。電柱や変圧器ボックスの上には、絶縁性が高く安全な樹脂製のバードピンが多く使われており、物理的に鳥を止まらせないことで被害を防ぐ効果があります。

さらに、感電を防止するため、電柱の上部に安全な止まり木を設ける対策も実施されています。これは、鳥が安全に休息できる場所を提供することで、危険な場所への着地を防ぐ目的があります。

巣作り対策と最新技術の活用

カラスなどの鳥が電柱に巣を作ることは、ショートや停電の大きな原因となるため、電力会社は巣の撤去作業を定期的に実施しています。特にカラスが金属製のハンガーや針金などを巣材として利用すると、それが電線に接触して漏電や火災、停電を引き起こす可能性があるため、これらの巣は特に優先的に撤去されます。

北陸電力送配電では、カラスの巣を自動的に検知するAI搭載車両を2023年から導入し、早期発見に努めている事例も報告されています。これにより、事故が起こる前に巣を撤去し、未然に防ぐことが可能になります。また、電力会社は、カラスの巣など電線への異常を見つけた場合に連絡するよう市民に呼びかけており、地域全体で電力インフラの安全を守るための重要な取り組みとなっています。

その他の対策と今後の展望

電線上の鳥害対策として主流となっているのは、透明なテグスを電線に沿って設置する方法です。これは鳥を止まりにくくし、糞害などの被害抑制に効果的であり、設置も簡単でコストも抑えられるため導入しやすい対策とされています。試験的に忌避剤を使用するケースもありますが、メンテナンス時の滑りやすいリスクなど、注意が必要な点もあります。

日本では、景観保全や災害時の倒壊リスク軽減の観点から、電線が地中化される「無電柱化計画」が進められています。欧米諸国と比較すると整備ペースは遅いものの、これが進めば鳥害対策だけでなく、より安全で美しい街づくりにも貢献できると期待されています。

これらの対策は、鳥の生態系保全と電力インフラ保護という二つの側面を両立させながら進められており、人と鳥が共存できる環境を創出するために、今後も鳥害対策技術の進化が期待されています。

高圧線の電線に鳥が止まらない理由は?送電鉄塔の秘密

電線に関するもう一つの興味深い話題として、送電鉄塔の電線に鳥がほとんど止まらない理由について触れてみましょう。この現象には、通常の電線とは異なる特別な理由があります。

むき出しの高電圧線という特殊性

一般的に、非常に高い電圧がかかっている送電鉄塔の電線には、鳥はほとんど止まりません。これは、通常の電線とは異なり、電気を通さないカバー(絶縁被覆)が付いていないことが多いからです。

送電鉄塔の電線にかかる電圧は極めて高く、例えば6万6000ボルトから50万ボルトにも達するため、ゴムのような絶縁体で覆ったとしても、その高電圧の前ではほとんど意味をなさないのです。そのため、送電鉄塔の電線は金属がむき出しの状態で設置されています。

鳥の電場感知能力

では、なぜ鳥はこのようなむき出しの高電圧線に止まらないのでしょうか。「一本の電線に止まっていれば電位差は発生しない」という原理は変わりませんから、本来であれば感電はしないはずです。

しかし、鳥には「高い電圧(見えない力、つまり電場)を感じる」能力があると言われています。動物の持つ本能的な能力は驚くべきもので、この見えない危険を察知することで、高電圧の電線には近づかない、あるいは止まらないようにしていると考えられています。高電圧であればあるほど、鳥は近づかない傾向にあるとされています。

この能力は、鳥が自然界で生き延びるために進化の過程で身につけた、危険回避のためのセンサーのようなものだと考えられます。人間には感じることができない電場の強さを、鳥は本能的に察知し、身を守っているのです。

架空地線という安全な選択肢

送電鉄塔の一番上に張られている電線は「架空地線(かくうちせん)」と呼ばれるもので、これは雷から送電設備を保護する役割を担っています。この架空地線は通常、電気が流れていないため、もし鳥が鉄塔に止まるとすれば、この安全な架空地線に止まることになります。

つまり、鳥は本能的に危険な高電圧線を避け、安全な場所を選択しているということになります。この現象は、動物の持つ優れた危険察知能力と、電気という見えないエネルギーとの興味深い関係を示している例と言えるでしょう。

高電圧の送電設備周辺では、人間も同様に強い電場の影響を受ける可能性があるため、立ち入り禁止区域が設けられています。鳥の本能的な回避行動は、私たち人間にとっても重要な安全の指標となっているのです。

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