なぜ人々はフラットアースを信じるのか?地球平面説の陰謀論と心理的根拠を徹底解説

当ページのリンクには広告が含まれています。

現代社会は科学技術が高度に発展し、人工衛星が地球を周回し、国際宇宙ステーションから撮影された美しい青い惑星の映像を誰もが目にできる時代となりました。しかしその一方で、地球は平らであるという信念を持つ人々が増加しているという奇妙な現象が起きています。この地球平面説、いわゆるフラットアース理論は、単なる科学的無知の問題として片付けることはできません。むしろ、現代社会における情報の伝播、権威への不信、そして人間の心理が複雑に絡み合った社会文化的な現象として捉える必要があります。なぜ21世紀を生きる人々が、何世紀も前に否定された理論を信じるのか、その背景にはどのような心理的・社会的要因が存在するのか、そして彼らが主張する根拠とは一体何なのか。この問いに答えることは、陰謀論が広がる現代社会を理解する上で極めて重要な意味を持っています。

目次

地球平面説が描く世界像とは

地球平面説を信じる人々が描く世界は、私たちが学校で学んできた科学的知識とは根本的に異なる宇宙観を提示します。彼らによれば、地球は回転する球体ではなく、静止した平らな円盤であるとされています。この円盤の中心には北極が位置し、そこから放射状に大陸が広がっているというモデルです。

この平面世界の端はどうなっているのかという疑問に対して、フラットアース信奉者たちは独自の答えを用意しています。彼らは、南極大陸が実は円盤の縁を取り囲む巨大な氷の壁であると主張します。この氷の壁が海水を保持しており、だからこそ人々が世界の端から落ちることはないと説明されています。さらに彼らは、この氷の壁が各国政府や国際機関によって厳重に監視されており、一般人が接近することを妨げているという陰謀論と結びつけています。

太陽と月についても、地球平面説は科学的理解とは全く異なる説明を提供します。太陽は遠く離れた巨大な恒星ではなく、直径わずか数十キロメートルの小さな発光体であり、平らな地球の上空数千キロメートルを周回しているとされています。季節の変化は、この太陽の軌道が変化することで説明されます。北半球の夏には太陽の軌道が小さくなって北極に近づき、冬には軌道が広がって遠ざかるという理論です。

特に興味深いのは、重力の概念そのものが否定されている点です。地球平面説の信奉者たちは、物体を地球の中心に引き寄せる力としての重力を「デマ」として退けます。その代わりに提唱されるのが万有加速という概念です。これは、地球の円盤全体が毎秒9.8メートル毎秒の割合で永久に上向きに加速しており、その結果として物体が地表に押し付けられているという説明です。しかしこの理論は、太陽や月が同じように加速されて地球に衝突するはずだという明白な矛盾を含んでいます。

宗教的な動機を持つ信奉者の中には、地球を覆う固い天蓋、いわゆるファーマメントの存在を信じる人々もいます。この天蓋には星々が固定されており、聖書の宇宙観を文字通り解釈したものとなっています。このような世界観は、日常的な感覚体験、つまり地面が静止しているように感じられ、地平線が平らに見えるという直接的な知覚を重視した結果として構築されています。

地球平面説の歴史的ルーツ

多くの人が誤解していることですが、中世ヨーロッパで地球平面説が支配的だったという通説は実は歴史的な神話です。実際には、地球が球体であることは古代ギリシャの時代から知られており、ピタゴラスやアリストテレスといった哲学者たちによって論じられてきました。中世の教育を受けた人々の間でも、地球球体説は広く受け入れられていたのです。

現代の地球平面説運動の真の起源は、19世紀のイギリスに遡ります。その創始者とされるのが、サミュエル・ロウボザムという人物です。彼は「パララックス」という偽名で執筆活動を行い、1849年に『ゼテティック天文学:地球は球体ではない』というパンフレットを発表しました。この著作が、現代のフラットアース理論のほぼすべての基礎を築いたとされています。

ロウボザムが提唱したゼテティシズム、つまり探求主義という概念は、現代のフラットアース運動においても中心的な役割を果たしています。これはギリシャ語で「探求する」を意味する言葉に由来し、理論的な科学よりも個人的な実験と観察を重視するというアプローチです。この方法論は、確立された科学的権威を拒絶するための哲学的な正当化を提供しており、信奉者たちは自らを科学否定論者ではなく、真の経験主義者であると位置づけています。

19世紀後半から20世紀にかけて、この運動は組織化されていきました。エリザベス・ブラント夫人は1893年に万国ゼテティック協会を設立し、地球平面説とキリスト教原理主義との結びつきを強化しました。アメリカでは、イリノイ州ザイオンの宗教指導者ウィルバー・グレン・ヴォリヴァが20世紀半ばまでこの教義を説いていました。

1956年には、サミュエル・シェントンによって国際地球平面研究協会が設立され、この組織はチャールズ・K・ジョンソンのリーダーシップの下で2001年まで存続しました。その後インターネットの普及とともに、この運動は劇的な復活を遂げることになります。ロウボザムが150年以上前に確立した方法論、つまり「自分で調べる」という精神と、確立された権威への懐疑主義は、現代のソーシャルメディア時代において驚くほど効果的に機能しているのです。

フラットアース信奉者が主張する根拠

地球平面説の信奉者たちは、自分たちの信念を裏付けるためにさまざまな「証拠」を提示します。これらの主張は科学的な言説を模倣しており、一見すると説得力があるように見えるかもしれません。

最も有名な実験的根拠とされるのが、ベッドフォード水路実験です。これは19世紀にロウボザム自身が行ったとされる観察で、約10キロメートルにわたる運河において、地球の曲率によって隠れるはずの遠方のボートが見えたと主張されています。この実験は現代の信奉者たちによって繰り返し引用され、追試も試みられています。科学的には、この現象は大気による光の屈折、特に気温の逆転層が存在する場合に光が地球の曲面に沿って曲がることで説明できます。しかし信奉者たちは、このような科学的説明を後付けの言い訳として退けています。

感覚的な経験に基づく議論も、フラットアース理論の重要な柱となっています。彼らは「地平線は完全に平らに見える」と主張します。どんなに高い場所から見ても、地平線は平坦であり、目の高さまで上がってくるように見えるというのです。また、もし地球が時速1,600キロメートル以上で自転し、さらに時速10万キロメートル以上で太陽の周りを公転しているなら、そのような猛烈な動きを人間は感じるはずだと主張します。慣性の法則や共通の基準系という物理学の概念は、直感に反するものとして拒絶されています。

遠ざかる船が水平線の向こうに消えていく現象についても、彼らは独自の解釈を提供します。船体が先に消えて最後にマストが見えるという、地球の曲率を示す古典的な観察は、遠近法や視角解像度、大気の状態によって説明できると主張されます。さらに彼らは、強力なズームレンズを使えば一度消えた船を「呼び戻す」ことができると述べていますが、これは地平線付近での光学的な拡大効果に過ぎません。

しかし、フラットアース理論の最も強力な「根拠」は、物理的な証拠ではなく陰謀論にあります。公式な情報源から提供される地球球体説の証拠はすべて、何世紀にもわたる巨大な陰謀の一部として退けられるのです。宇宙から撮影された地球の画像はすべてCGIや合成写真であると主張され、写真の中の雲の配置やコントラストの不自然さが編集の「証拠」として指摘されます。月面着陸もでっち上げであり、アポロ計画全体が壮大な嘘であるとされています。

この陰謀の動機については信奉者の間でも意見が分かれていますが、神の存在を隠蔽するため、人類を支配下に置くため、あるいは世界の端の向こうに存在する未知の土地や資源を独占するためなどといった説が唱えられています。重要なのは、この陰謀論の枠組みが反証不可能な構造を持っているという点です。地球球体説を支持するいかなる証拠も、それが陰謀の一部であると断定することで即座に無効化できてしまうのです。

科学が示す地球球体の証拠

地球が球体であることを示す証拠は、単一のデータポイントではなく、天文学、物理学、測地学、技術、そして日常的な経験といった複数の独立した分野からの、深く織りなされた証拠の集合体です。地球平面説を信じることは、単一の事実を否定するだけでなく、現代科学の体系全体を解体することを要求します。

誰でもアクセス可能な観測的証拠として、まず遠ざかる船の観察があります。遠方に向かう船が船体から先に消え、近づいてくる船がマストから先に見えるという現象は、地球の曲率の直接的な視覚的確認です。また、月食の際に月面に映る地球の影は、地球の向きにかかわらず常に円弧状を描きます。どの角度から見ても円形の影を落とせるのは球体だけであり、平らな円盤では線状や楕円形の影になってしまいます。

星座の見え方も重要な証拠です。北半球で見える星座と南半球で見える星座は異なり、北極星は南に移動するにつれて地平線の下に沈んでいきます。もし地球が平面であれば、世界中のどこからでも同じ星空が見えるはずですが、実際にはそうなっていません。この観察は古代から知られており、地球球体説の最も古い証拠の一つとなっています。

物理学の観点からは、重力の働き方が決定的な証拠となります。重力は質量の中心に向かって働く力であり、巨大な天体ではこの力によって自然に球形が形成されます。もし地球が平らな円盤であれば、重力は円盤の中心に向かって働くため、円盤の縁に近い地域に住む人々は強い横向きの力を感じるはずですが、そのような現象は世界のどこでも観測されていません。

1851年にレオン・フーコーが実演したフーコーの振り子は、地球の自転を直接的に証明する実験です。巨大な振り子の振れる面が時間とともに回転して見えるのは、その下で地球が自転しているためです。この実験は世界中の科学館で再現可能であり、地球の自転を目で見て確認することができます。

現代技術の中で最も明確な証拠となるのが、GPS(全地球測位システム)の存在です。GPSは地球を周回する複数の衛星からの信号を受信し、その時間差から位置を計算するシステムです。このシステムは球体の地球を前提とした3次元の球座標系を使用しており、さらに一般相対性理論と特殊相対性理論による時間の補正を必要とします。もし地球が平面で静止していれば、GPSは全く機能しないはずです。

長距離航空路も重要な証拠を提供します。特に南半球のフライト、例えばオーストラリアのシドニーからチリのサンティアゴへの直行便は、球体上の最短経路である大圏航路を飛行します。この航路は平面地図上では大きな曲線として表示されますが、球体上では最短距離となります。標準的な地球平面説の円盤モデルでは、これらの南半球のフライトは非現実的なほど長距離となってしまい、実際のフライト時間と矛盾します。

南極大陸における24時間太陽の観測も、決定的な証拠です。南半球の夏の期間、南極大陸の特定の地点では24時間連続で太陽が沈まない白夜現象が観測されます。この現象は、太陽が氷の壁の外側を周回しなければならない地球平面説モデルでは説明不可能です。

これらの証拠の強みは、それぞれが独立して存在するのではなく、相互に補強し合う一つの首尾一貫したモデルから導き出されているという点にあります。GPSは相対性理論と軌道力学に依存し、航空路は球面幾何学に依存し、フーコーの振り子は古典力学に依存し、月食は天体力学に依存しています。これらすべてが同じ結論、つまり地球は回転する球体であるという結論を支持しているのです。

なぜ人々は地球平面説を信じるのか

地球平面説への傾倒を単なる科学的知識の欠如として説明することはできません。実際、多くのフラットアース信奉者は知的で雄弁であり、複雑な議論を展開する能力を持っています。この信念の根底には、心理学的、社会学的、そして文化的な要因が複雑に絡み合っているのです。

最も重要な前提条件となるのが、権威への深い不信感です。政府機関、科学界、特にNASA、そして主流メディアといった公式な情報源に対する根深い懐疑が、この信念が芽生えるための土壌を提供しています。この不信感はしばしば、実際に起きた政府の欺瞞行為と結びつけられます。例えば、アメリカで1932年から1972年まで実施されたタスキギー梅毒実験では、アフリカ系アメリカ人男性が治療を受けられると信じて参加させられながら、実際には意図的に治療が行われませんでした。このような歴史的事実が、すべての公式知識への懐疑へと拡大解釈されていくのです。

地球平面説は、より広範な陰謀論的思考様式の一部として機能しています。この思考様式は、主要な出来事や社会現象を強力で悪意のある主体による秘密の陰謀の結果と見なす傾向があります。心理学的研究によれば、陰謀論的思考への傾向が高い人々は、一つの陰謀論を信じると他の陰謀論も受け入れやすくなることが示されています。地球平面説を信じる人々の多くは、月面着陸陰謀論、9.11同時多発テロ陰謀論、ワクチン陰謀論なども同時に信じている傾向があります。

認知バイアスも重要な役割を果たしています。特に強力なのが確証バイアスです。これは、自分の既存の信念を裏付ける情報を優先的に探し求め、受け入れる一方で、矛盾する証拠を避けるか無視する傾向です。地球平面説の信奉者たちは、YouTubeで何百もの地球平面説ビデオを視聴し、同じ考えを持つ人々のコミュニティに参加することで、自分たちの世界観を常に強化し続けます。

動機づけられた推論も顕著に見られます。これは、証拠を客観的に評価するのではなく、望ましい結論に到達するために証拠を選別する思考プロセスです。自分の信念を支持する証拠は最小限の批判的検討で受け入れられる一方、それに反する証拠は極度に厳しい批判的精査の対象となります。NASAの写真に微細な不自然さを見つけると編集の証拠として受け入れる一方で、地球平面説の内部矛盾は容易に見過ごされるのです。

心理学的な魅力として、秘密の知識を持つことの報酬も見逃せません。地球平面説を信じることは、自分が深遠な隠された真実を暴いた数少ない啓蒙された人間の一人であるという感覚をもたらします。これは心理学でいう「独自性への欲求」を満たし、公式見解を盲目的に受け入れる「羊(シープル)」よりも知的に優位であると自己を位置づけることを可能にします。

しかし、おそらく最も強力な要因は社会的なつながりとコミュニティの形成です。オンラインのフォーラム、Discordサーバー、ソーシャルメディアグループ、そしてオフラインでの地球平面説カンファレンスは、強い帰属意識、承認、そして共有されたアイデンティティを提供します。このコミュニティ内では、主流社会から異端視される信念を持つことが称賛され、メンバーは互いの確信を強化し合います。

この社会的支援システムは、外部世界からの嘲笑や批判から信奉者たちを守る防壁として機能します。同時に、いったんこのコミュニティの一員となると、信念を放棄することは社会的な排斥を意味するため、抜け出すことが極めて困難になります。多くの元信奉者が証言しているように、地球平面説を信じることをやめることは、単に科学的事実を受け入れることではなく、アイデンティティの危機と友人関係の喪失を伴う苦痛なプロセスなのです。

インターネットとYouTubeの役割

19世紀に生まれ、20世紀を通じて小規模なグループに限定されていた地球平面説が、21世紀に入って劇的な復活を遂げた背景には、デジタル技術、特にYouTubeの存在が決定的な役割を果たしました。

多くの研究者や信奉者自身の証言によれば、YouTubeは現代の地球平面説復活における最も影響力のある単一の要因です。プラットフォームの推薦アルゴリズムが、意図せずしてこの信念の拡散を加速させたのです。他の陰謀論、例えば9.11同時多発テロ事件や月面着陸に関するビデオを視聴しているユーザーに、アルゴリズムが地球平面説のコンテンツを「おすすめ」として提示することが頻繁に起きました。

これにより、好奇心旺盛な、あるいはすでに何らかの陰謀論に興味を持つユーザーが、徐々により極端な内容へと誘導される自動化された過激化のパイプラインが形成されました。最初は単なる疑問から始まったものが、アルゴリズムによって次々と関連動画が提示されることで、数週間のうちに確固たる信念へと変化していくケースが報告されています。

現代の運動において特に影響力を持つのが、カリスマ的なオンライン・インフルエンサーたちです。マーク・サージェントは、2015年に公開したYouTubeシリーズ「Flat Earth Clues」を通じて、新世代の信奉者を獲得する上で中心的な役割を果たしました。彼は地球を映画「トゥルーマン・ショー」のような閉鎖系として描くフレームワークを提示し、多くの視聴者の共感を呼びました。

エリック・デュベイも重要な人物です。彼の著作『地球が回転する球体でない200の証拠』は、YouTubeで広く共有され、アルゴリズムによって頻繁に推薦される影響力の大きいコンテンツとなりました。これらのインフルエンサーたちは、プロフェッショナルな制作技術と魅力的な語り口を駆使して、複雑な陰謀論を説得力のあるナラティブとして提示することに成功しました。

YouTube以外にも、Facebookグループ、Reddit、Discordサーバーなどのオンラインプラットフォームが、世界中の信奉者をつなぐ役割を果たしています。これらの空間はエコーチェンバーとして機能し、自分たちの信念を支持する「証拠」が共有・増幅される一方、反対意見は禁止されるか激しく攻撃されます。このような環境の中で、集団的な現実認識が構築され、維持されていくのです。

地球平面説カンファレンスに参加した人々へのインタビューでは、大多数がYouTubeを通じてこの理論に出会ったと報告しています。多くの場合、彼らは最初から地球平面説を探していたわけではなく、他のトピックを調べているうちに推薦アルゴリズムによってそこに導かれたのです。これは、プラットフォームが単にコンテンツをホストしただけでなく、感受性の高い視聴者に対して積極的にそれを宣伝したことを示しています。

エンゲージメントを最大化するように設計されたYouTubeのアルゴリズムは、センセーショナルで論争的なコンテンツを優遇する傾向があります。地球平面説のビデオは、その刺激的な主張と反主流的な性質のため、高いエンゲージメント率を生み出し、それがさらなる推薦を促すという正のフィードバックループを形成しました。19世紀にパンフレットやニュースレターに限定されていた運動が、21世紀のデジタルプラットフォームによって世界的な現象へと変貌したのです。

信念が試された瞬間

地球平面説コミュニティが自らの信念を科学的に証明しようと試みた実験は、皮肉にも、信念が証拠によってではなく動機とアイデンティティによって維持されることを最も明確に示す結果となりました。

2018年にNetflixで公開されたドキュメンタリー『ビハインド・ザ・カーブ』は、著名な地球平面説信奉者たちが自分たちの理論を証明するために実験を行う様子を追いました。その中で最も注目すべきは、YouTubeチャンネル「GlobeBusters」のボブ・クノーデルらが実施したレーザージャイロスコープ実験です。

彼らは地球が静止していることを証明するために、2万ドルもする高精度のリングレーザージャイロスコープを購入しました。しかし、この装置は一貫して1時間あたり15度のドリフトを検出しました。これは地球の自転速度と正確に一致する数値です。自分たちが購入した装置が、自分たちの信念とは正反対の結果を示したのです。

しかし彼らの反応は、結果を受け入れて信念を修正することではありませんでした。代わりに、未知のエネルギーや天界の干渉といった追加の仮説を持ち出して、この結果を説明しようとしたのです。測定結果そのものは否定できないため、その解釈を変えることで認知的不協和を解消しようとしました。

別の実験では、長い水路に沿って2つのゲートを通して光を照らし、光線が同じ高さを保つかどうかを確認しました。もし地球が平面であれば、光は直線を保つはずです。しかし実験結果は望ましいものではなく、地球の曲率によって光が遮られているように見えました。信奉者たちは即座に、実験手順の問題(雑草が邪魔をしていた、装置の設置が不完全だったなど)を指摘し、実験のやり直しを求めました。

さらに劇的だったのが、2024年に実施された「最後の実験」南極遠征です。ウィル・ダフィ牧師によって企画されたこのプロジェクトは、地球平面説信奉者と非信奉者のグループを南極に連れて行き、決定的な予測を検証しようとしました。それは、南半球の夏における24時間太陽の存在です。

地球平面説の標準的なモデルでは、太陽は平面の上空を周回しているため、南極(氷の壁)の向こうで24時間連続で太陽が見えるという現象は不可能です。一方、球体地球モデルでは、この現象は自転軸の傾きによって当然起こるべきものとして予測されます。

遠征チームは実際に南極で数日間にわたって白夜を観測し、その様子をライブストリーミングで世界に配信しました。これは地球平面説の中心的な主張の一つを明確に反証する結果でした。遠征に参加した信奉者の一人であるジェラン・カンパネラは、この経験を受けて自分たちのモデルが間違っていたことを認めました。

しかし、より広範なオンラインコミュニティの反応は全く異なるものでした。多くの信奉者たちは、この結果を完全に拒絶しました。遠征に参加した信奉者たちを「裏切り者」や「陰謀の一部」として非難し、配信された映像はCGIであると主張し、遠征全体が支配層による巧妙な欺瞞の一部であると解釈したのです。自分たちのコミュニティのメンバーが実際に現地で観測した結果さえも、信念を守るためには疑わしいものとして退けられました。

これらの事例が示すのは、信念の固執の強力さです。明確で、自らが生み出した矛盾する証拠に直面したときでさえ、核となる信念(世界は平面であり、我々は嘘をつかれている)は無傷のまま保たれます。認知的不協和は、信念を変えることによってではなく、証拠やそれを提示した人々を信用できないものと見なすことによって解決されるのです。

現代社会への示唆

地球平面説現象は、単に非科学的な信念の問題として片付けることはできません。これは現代社会が直面する、より深刻な課題の症状なのです。

第一に、この現象は科学リテラシーと批判的思考の教育における課題を浮き彫りにしています。単に科学的事実を教えるだけでは不十分であり、なぜその事実が信頼できるのか、科学的方法論とはどのようなものか、そして証拠をどう評価すべきかを教える必要があります。多くのフラットアース信奉者は「自分で調べろ」と主張しますが、彼らが行っているのは真の科学的探求ではなく、既存の信念を裏付ける情報の選別に過ぎません。

第二に、制度への信頼の崩壊という問題があります。政府、科学界、メディアといった権威的機関への不信感が、このような極端な信念の温床となっています。過去の実際の欺瞞行為が、すべての公式情報への懐疑へと拡大解釈されているのです。信頼を再構築するためには、透明性の向上、説明責任の強化、そして市民との対話が不可欠です。

第三に、ソーシャルメディアとアルゴリズムの責任という問題が明確になりました。YouTubeやFacebookなどのプラットフォームは、エンゲージメントを最大化するようにアルゴリズムを設計していますが、これが意図せずして疑似科学や陰謀論の拡散を促進してしまっています。プラットフォーム企業は、自社のアルゴリズムが社会に与える影響についてより大きな責任を負う必要があります。

第四に、この現象は帰属意識とコミュニティの重要性を示しています。多くの人々が地球平面説コミュニティに惹かれるのは、科学的な議論の説得力ではなく、そこで得られる社会的つながりと承認のためです。現代社会における孤立と疎外感が、このような代替的コミュニティへの需要を生み出しているのです。

最後に、地球平面説現象は情報時代における真実の性質について深刻な問いを投げかけています。客観的な真実という概念そのものが攻撃を受け、すべてが相対的な視点の問題として扱われる環境では、事実に基づく議論を行うことがますます困難になっています。

まとめ

地球平面説を信じる人々は、単に無知であるわけでも、知的能力に欠けているわけでもありません。彼らの信念は、権威への不信、心理的な報酬、社会的なつながり、そしてデジタル時代のアルゴリズムによって形成され、維持されている複雑な現象なのです。

19世紀にサミュエル・ロウボザムによって体系化された地球平面説は、確立された科学的権威への反動として生まれました。この運動は20世紀を通じて小規模なグループに限定されていましたが、インターネット、特にYouTubeの出現によって21世紀に劇的な復活を遂げました。プラットフォームの推薦アルゴリズムが、意図せずして過激化のパイプラインとして機能し、好奇心や懐疑心を持つ人々を徐々にエコーチェンバーの深淵へと導いたのです。

フラットアース信奉者が提示する根拠、例えばベッドフォード水路実験や感覚的な議論は、科学的に容易に反証できるものです。地球が球体であることを示す証拠は圧倒的であり、天文学、物理学、技術、日常的な観察など、複数の独立した分野から一貫して支持されています。しかし、陰謀論の枠組みがこの信念体系を反証不可能にしています。すべての反対証拠は、壮大な陰謀の一部として退けることができるのです。

心理学的には、地球平面説を信じることは強力な報酬をもたらします。秘密の知識を持つという感覚、知的優越感、そして何よりも強い帰属意識とアイデンティティの形成です。これらの社会的・心理的要因が、証拠よりも強力に信念を維持する力として働いています。

レーザージャイロスコープ実験や南極遠征といった、信奉者自身が行った実験が自分たちの理論を反証した場合でさえ、より広範なコミュニティはその結果を拒絶しました。これは、信念が暫定的な科学的仮説としてではなく、アイデンティティとコミュニティの核として機能していることを示しています。

地球平面説現象を理解することは、現代社会が直面する他の多くの課題、例えばワクチン忌避、気候変動否定論、選挙陰謀論などを理解するための重要なレンズを提供します。これらすべてに共通するのは、事実そのものよりも、誰を信頼するか、どのコミュニティに属するか、そして自己のアイデンティティをどう定義するかという問題なのです。

核心的な問いは「地球は平らか」ではありません。真の問いは「なぜ人々は権威を信頼しないのか」「デジタル時代において真実をどう定義し共有するのか」「孤立した個人にコミュニティと意味をどう提供するのか」といったものです。地球平面説現象は、これらの深刻な社会的課題の一つの表れに過ぎないのです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次