スマホ新法とは、AppleやGoogleといった巨大IT企業によるスマートフォン市場の寡占状態を是正し、公正な競争を促進するために制定された法律です。正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」で、2025年12月18日に全面施行される予定となっています。この法律により、iPhoneユーザーもApp Store以外のアプリストアからアプリをダウンロードできるようになるほか、決済システムの選択肢が広がるなど、ユーザーの自由度が大幅に高まることが期待されています。
スマホ新法は2024年6月12日に国会で成立し、同年6月19日に公布されました。その後、段階的に施行が進められ、2025年3月31日にはApple Inc.、iTunes株式会社、Google LLCの3社が指定事業者として指定されました。本記事では、スマホ新法の概要から規制内容、ユーザーや開発者への影響、メリット・デメリット、そしてEUの先行事例との比較まで、2025年の最新情報をもとにわかりやすく解説していきます。

スマホ新法の正式名称と制定経緯
スマホ新法の正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」(令和6年法律第58号)です。一般的には「スマホ新法」「スマホソフトウェア競争促進法」「スマホ法」などの通称で呼ばれています。
この法律は2024年6月12日に国会で成立し、同年6月19日に公布されました。その後は段階的に施行が進められており、2024年12月19日には規制事業者の指定に関する規定が先行施行されました。2025年3月31日には公正取引委員会によって指定事業者が指定され、2025年5月には政令案の公表とパブリックコメント募集が実施されました。そして2025年12月18日に全面施行される予定です。
法律の制定目的は、スマートフォンのOS(基本動作ソフトウェア)やアプリストアを提供する巨大IT企業による市場の寡占状態を是正することにあります。現在の日本のスマートフォン市場では、AppleのiOSとGoogleのAndroidがOSシェアのほぼ全てを占めており、アプリストアについてもiPhoneではApp Store、AndroidではGoogle Play Storeがそれぞれ独占的な地位を持っています。このような状況では、アプリ開発者や消費者の選択肢が限られ、イノベーションや価格競争が阻害される恐れがあるとされてきました。スマホ新法は、こうした状況を改善し、ユーザーがより良いサービスに出会い、多くの選択肢の中から自由に選べる環境を目指しています。
スマホ新法の規制対象となる特定ソフトウェア
スマホ新法では、スマートフォンの利用に特に必要なソフトウェアとして、4種類の「特定ソフトウェア」を規制対象に定めています。
基本動作ソフトウェア(OS) は、スマートフォンの基本的な動作を司るソフトウェアです。AppleのiOSやGoogleのAndroidがこれに該当します。OSはスマートフォンを動かすための土台となる存在であり、ユーザーが直接触れる機会は少ないものの、すべてのアプリやサービスの動作に影響を与える重要な位置づけにあります。
アプリストア は、スマートフォン用のアプリを配信・販売するプラットフォームです。iPhoneにおけるApp Store、AndroidにおけるGoogle Play Storeがこれに該当します。ユーザーが新しいアプリを入手する際の主要な入り口となっており、これまではOSごとに実質的に1つのストアしか選択肢がない状況が続いていました。
ブラウザ は、ウェブサイトを閲覧するためのソフトウェアです。AppleのSafariやGoogleのChromeなどがこれに該当します。インターネット上の情報にアクセスするための基本的なツールであり、ユーザーのオンライン体験に大きな影響を与えます。
検索エンジン は、インターネット上の情報を検索するためのサービスです。Google検索やYahoo!検索などがこれに該当します。ユーザーが求める情報にたどり着くための重要なゲートウェイとなっています。
指定事業者と規制の仕組み
スマホ新法では、公正取引委員会が「指定事業者」を指定する仕組みを採用しています。指定の基準は、国内で月平均4000万人以上が利用する特定ソフトウェアを提供する事業者という点に設定されています。
2025年3月31日、公正取引委員会は3社を指定事業者として指定しました。Apple Inc.はiOS、Safari、App Storeの提供者として、iTunes株式会社はApp Store関連の事業者として、Google LLCはAndroid、Chrome、Google Play Store、Google検索の提供者としてそれぞれ指定を受けました。これらの事業者は、スマホ新法に定められた禁止事項や遵守義務を守る必要があります。
指定事業者に対しては、違反行為があった場合に排除措置命令が下される可能性があります。公正取引委員会は、禁止事項に違反する行為を行った指定事業者に対して、当該行為の停止を命じる権限を持っています。また、違反行為によって得た利益に応じた課徴金が課せられる可能性もあります。
スマホ新法の主な禁止事項
スマホ新法では、指定事業者に対していくつかの重要な行為を禁止しています。
他社アプリストアの妨害禁止 は、最も注目される規制の一つです。iPhoneやAndroidにおいて、Apple App StoreやGoogle Play Store以外のアプリストアの提供や利用を妨害することが禁止されます。これにより、いわゆる「サイドローディング」と呼ばれる公式ストア以外からのアプリインストールが可能になります。これまでiPhoneユーザーはApp Storeからしかアプリをダウンロードできませんでしたが、新法施行後は他のアプリストアも選択肢に加わることになります。
他社決済システムの制限禁止 も重要な規制です。アプリ内での支払いについて、Apple PayやGoogle Payなど、指定事業者が提供する決済システム以外の利用を妨げることが禁止されます。開発者は、自社の決済システムや外部の決済サービスを利用できるようになり、アプリ内から自社ウェブサイトなど外部での購入を案内することも可能になります。
OS機能へのアクセス制限の禁止 により、他社のアプリがOSの機能にアクセスすることを不当に制限することが禁止されます。NFC、Bluetooth、カメラ、位置情報などの機能について、サードパーティ製のアプリがより多くの機能を活用できるようになることが期待されています。
自社サービスの不当な優遇禁止 は、検索結果やアプリストアの表示において、自社サービスを正当な理由なく他社より優先的に扱うことを禁止する規制です。これにより、競合他社のサービスも公平に表示される環境が整備されます。
スマホ新法の主な遵守義務
禁止事項に加えて、指定事業者にはいくつかの遵守義務も課せられています。
デフォルト設定の変更容易化 は、ブラウザや検索エンジンなどのデフォルト設定を、ユーザーが簡単な操作で変更できるようにすることを求めるものです。初期設定時に選択画面を表示することも義務付けられています。これにより、ユーザーは自分の好みに合わせて使用するブラウザや検索エンジンをより自由に選べるようになります。
データポータビリティの確保 は、ユーザーが自分のデータを他のサービスに移行しやすくするための措置を講じることを求めています。特定のサービスに縛られることなく、より自由にサービスを乗り換えられる環境が整備されることになります。
透明性の確保 は、アプリストアの審査基準や手数料体系などについて、透明性のある情報開示を求めるものです。開発者やユーザーが、どのような基準でアプリが審査され、どのような手数料が課せられるのかを明確に把握できるようになります。
セキュリティとプライバシー保護の例外規定
スマホ新法では、セキュリティやプライバシー保護、青少年保護などの正当な理由がある場合には、一定の制限が認められています。これは、ユーザーの安全を確保しながら競争促進を図るための重要な配慮です。
サードパーティのアプリストアに対して、一定のセキュリティ基準を満たすことを条件とすることや、不正なアプリの配信を防ぐための審査を行うことは許容されます。日本では、公式アプリストア以外のサードパーティ運営のアプリストアに対して、開発者証明書(公証)を付与する制度を導入する予定です。これにより、EUで生じているセキュリティリスクを軽減する効果が期待されています。
ただし、その基準や審査が不当に厳しく、事実上の参入障壁となることは禁止されます。セキュリティを理由とした過度な制限が、競争促進の目的を骨抜きにすることがないよう、バランスの取れた運用が求められています。
法律制定の背景にある市場環境
スマホ新法が制定された背景には、日本のスマートフォン市場における深刻な寡占状態があります。日本市場では、AppleとGoogleの2社による事実上の寡占状態が続いており、OSについてはiOSとAndroidで市場シェアのほぼ100%を占めています。アプリストアについても、iPhoneユーザーはApp Store、AndroidユーザーはGoogle Play Storeをそれぞれ利用するしかない状況でした。
このような市場構造の中で、AppleとGoogleはアプリストアの手数料設定権限、アプリの審査・承認権限、決済システムの独占、デフォルトアプリの設定権限、OSの機能へのアクセス制限といった優位な立場を維持してきました。これらの権限により、両社は自社サービスを有利に扱い、競合他社の参入を困難にしてきたという指摘があります。
従来、市場の寡占や独占的行為に対しては、独占禁止法によって対処されてきました。しかし、独占禁止法による規制には限界がありました。個別の違反行為を事後的に摘発・是正する必要があり時間がかかること、デジタル市場の急速な変化に対応しきれないこと、巨大IT企業の複雑なビジネスモデルに対する規制が難しいこと、抑止力としての効果が限定的であることなどが課題として挙げられていました。そこで、事前に規制のルールを明確化し、違反を未然に防ぐ「事前規制」の枠組みとして、スマホ新法が制定されることになりました。
EUデジタル市場法との関連
スマホ新法の制定背景には、海外での規制強化の動きも大きく影響しています。欧州連合(EU)では2023年に「デジタル市場法(Digital Markets Act:DMA)」が施行され、2024年から全面適用されています。
EUのデジタル市場法は、一定の条件を満たす大規模なプラットフォーム事業者を「ゲートキーパー」として指定し、様々な義務を課すものです。Apple、Google、Amazon、Meta、Microsoftなどが対象となっており、アプリストアの開放や決済システムの自由化などが義務付けられています。
日本のスマホ新法は、このEUデジタル市場法を参考にしつつ、日本の市場環境に合わせた規制内容となっています。両法律には、巨大IT企業を規制対象とすること、アプリストアの開放を義務付けること、決済システムの自由化を求めること、デフォルト設定の変更を容易にすることを義務付けること、自社サービスの不当な優遇を禁止することといった共通点があります。
日本のスマホ新法とEUデジタル市場法の違い
一方で、日本のスマホ新法とEUのデジタル市場法には重要な違いもあります。
規制対象の範囲 について、EUのデジタル市場法はプラットフォームとしてのエコシステム全体を規制対象としており、検索エンジン、ソーシャルネットワーク、動画共有サービス、オンライン広告なども含まれます。対して、日本のスマホ新法はスマートフォンの特定ソフトウェア(モバイルOS、アプリストア、ブラウザ、検索エンジン)に範囲を絞っています。日本の法律はスマートフォンに特化した規制となっている点が特徴です。
セキュリティ・プライバシー保護への配慮 について、日本のスマホ新法第7条では「サイバーセキュリティ確保・プライバシー保護・青少年保護」を目的とする場合には機能開放を制限できると明記されています。日本では認定されたサードパーティアプリストアからのダウンロードに限定される見込みですが、EUのデジタル市場法ではウェブサイトからのアプリの直接ダウンロードも許可されています。
EUでの先行事例から得られる教訓
EUではデジタル市場法の施行後、いくつかの問題が発生しており、日本のスマホ新法の運用においてはこれらの教訓を活かすことが重要です。
現在、欧州のiPhoneユーザーは世界の他の地域では利用できる機能の一部が使えない状況にあります。マップアプリの「よく行く場所」の履歴機能や、日常の移動パターンを学習して最適なルートを提案する「優先ルート」機能は欧州版では無効化されています。また、iPhoneの画面をMacに表示・操作可能とする「iPhoneミラーリング」機能も、EU圏内では提供されていません。
専門家からは、公正取引委員会が欧州委員会のような「ゴールポストずらし」(当初の基準を後から変更すること)を行うことは考えにくいとの見方が示されています。EUでのデジタル市場法の成功と失敗の両方から得られた教訓を、日本におけるよりよい環境づくりに活かすことが期待されています。
ユーザーにとってのメリット
スマホ新法の施行により、一般ユーザーにはいくつかのメリットが期待されています。
サービス選択の幅の拡大 は最も直接的なメリットです。アプリストアや検索エンジン、ブラウザなどを自由に選べるようになります。これまでiPhoneユーザーはApp Storeからしかアプリをダウンロードできませんでしたが、新法施行後は他のアプリストアも選択肢に加わります。
価格や手数料の引き下げ も期待されています。アプリストア間の競争が生まれることで、開発者が支払う手数料が下がる可能性があります。現在、App Storeでは売上の15〜30%、Google Play Storeでも15〜30%の手数料が課せられています。手数料が下がれば、その結果としてアプリの価格やアプリ内課金の料金が下がり、ユーザーに還元されることが期待されます。
新しいアプリやサービスの登場 も見込まれます。参入障壁が下がることで、中小企業やスタートアップが新しいアプリやサービスを提供しやすくなります。これまでApp StoreやGoogle Play Storeの審査で配信できなかったアプリも、別のストアから提供される可能性があります。
デバイス間連携の改善 も期待されるポイントです。OSの機能へのアクセス制限が緩和されることで、異なるメーカーのデバイス間での連携が改善される可能性があります。
ユーザーにとってのデメリットと懸念点
一方で、スマホ新法にはいくつかのデメリットや懸念点も指摘されています。
セキュリティリスクの増大 は最も懸念される点です。公式ストア以外からアプリをダウンロードできるようになることで、マルウェア(悪意のあるソフトウェア)に感染するリスクが高まる可能性があります。Googleの調査によると、Android端末でのマルウェア感染の約95%以上がサイドローディング(公式ストア以外からのインストール)によるものとされています。ユーザー自身がアプリの安全性を判断する能力がこれまで以上に求められるようになります。
一部機能の制限の可能性 も懸念されています。EUでは既にデジタル市場法が施行されていますが、その影響でAppleは一部の機能を制限しています。iPhoneとMac間の「iPhoneミラーリング」や「シェアプレイ」などの連携機能が、EU圏内では利用できない状況が続いています。日本でも同様に、スマホ新法の影響で一部の便利な機能が利用できなくなる可能性が懸念されています。
青少年保護の課題 も重要な懸念点です。サードパーティのアプリストアでは、App StoreやGoogle Play Storeほど厳格な審査が行われない可能性があります。その結果、青少年が性的コンテンツやオンラインカジノなどの有害なアプリにアクセスしやすくなる恐れがあります。また、WebKit以外のブラウザエンジンを搭載したブラウザが登場した場合、既存のフィルタリングサービスが正常に機能しなくなる可能性も指摘されています。
サポート体制の複雑化 も課題の一つです。複数のアプリストアが存在するようになると、問題が発生した際のサポート窓口が分散し、対応が複雑になる可能性があります。
アプリ開発者にとってのメリット
スマホ新法は、アプリ開発者(デベロッパー)にとってもポジティブな影響をもたらすと期待されています。
配信チャネルの多様化 により、App StoreやGoogle Play Store以外のアプリストアでもアプリを配信できるようになります。公式ストアの審査で却下されたアプリも、別のルートでユーザーに届けることが可能になります。
手数料負担の軽減 も大きなメリットです。サードパーティのアプリストアや独自の決済システムを利用することで、現在課せられている15〜30%の手数料を削減できる可能性があります。
外部決済への誘導が可能 になることも重要です。アプリ内から自社ウェブサイトなど外部での購入を案内することが可能になり、手数料のかからない自社決済システムへユーザーを誘導できるようになります。
OS機能へのアクセス拡大 により、これまで制限されていたOSの機能(NFC、近距離通信、センサーなど)にアクセスできるようになることで、より高機能なアプリの開発が可能になります。
アプリ開発者にとっての課題
一方で、開発者には新たな課題も生じます。複数のアプリストアでアプリを配信する場合、それぞれのストアの仕様や審査基準に対応する必要があり、開発・運用コストが増加する可能性があります。サードパーティストア経由でアプリが改ざん・再配布されるリスクに対応するため、アプリ自体のセキュリティ対策を強化する必要もあります。異なるストアからダウンロードしたユーザーに対するサポート体制を整備することも求められます。
AppleとGoogleの対応状況
Appleは、スマホ新法への対応として、日本でのサードパーティアプリストアの導入準備を進めています。開発者向けのiOS 26.2ベータ版では、日本でもサードパーティアプリストアのインストールが可能になっていることが確認されています。
一方で、Appleは「日本が、日本の企業と消費者の皆様にとって、Appleの最新かつ最先端の製品及びサービスを利用できる、最上位のテクノロジーの集積地であり続けるためには、規制の確実性が不可欠です」とコメントしており、規制の運用次第では一部の機能やサービスが日本で提供されなくなる可能性も示唆しています。
2025年6月に開催されたAppleの開発者会議「WWDC25」において、Appleの幹部は12月から施行される日本の規制について理解を深めるよう努めているとし、法令に遵守しながら可能な限り多くの機能を提供できるよう努めるとの方針を示しました。
Googleも、スマホ新法に対応するための準備を進めています。Androidは元々設定を変更することでサイドローディングが可能でしたが、新法施行後はよりユーザーが選択しやすい形での対応が求められます。
サードパーティ企業の参入動向
スマホ新法の施行を見据えて、サードパーティ企業によるアプリストア参入の動きも活発化しています。ゲーム会社Epic Gamesは、自社のゲーム配信プラットフォーム「Epic Games Store」を日本のiOSでも展開する準備を進めていると報じられています。Epic GamesはAppleとの訴訟を通じてApp Storeの手数料体系に異議を唱えてきた企業であり、スマホ新法を歓迎する立場です。
興味深い動きとして、Googleは2025年に、AndroidとiPhoneの間でAirDropのようなファイル共有ができるようにしたと発表しました。現時点では最新モデルのPixel 10シリーズのみが対象ですが、対象機種を順次拡大していく予定とのことです。このような動きは、スマホ新法が目指す「相互運用性の促進」の方向性と一致しています。
AirDropは使えなくなるのか
スマホ新法の施行に関連して、「AirDropが禁止されるのでは?」という噂がインターネット上で広まりましたが、現時点で法文にそのような記載はありません。スマホ新法の狙いは、AppleやGoogleが自社製品・サービスを優遇する状態を減らし、他社との相互運用を促すことにあります。AirDropそのものを禁止することが目的ではありません。
EUでもiPhone同士のAirDropは今も利用可能です。制限されているのはMacとの連携機能など一部に限られています。日本でも同様に、AirDrop機能自体が使えなくなることは考えにくいでしょう。
ただし、スマホ新法の施行により、Apple独自機能に一定の変化が生じる可能性はあります。iPhoneとMac、iPad、Apple Watchなどの間のシームレスな連携機能について、他社デバイスにも同様の機能を開放するよう求められる可能性があります。また、Apple PayでのNFC機能について、他社の決済サービスにも開放されることが予想されており、Apple Pay以外の決済アプリでもNFCを使ったタッチ決済が可能になる可能性があります。
罰則と実効性確保の仕組み
スマホ新法では、違反行為に対していくつかの措置が定められています。公正取引委員会は禁止事項に違反する行為を行った指定事業者に対して、当該行為の停止を命じる排除措置命令を出すことができます。違反行為によって得た利益に応じた課徴金が課せられる可能性もあります。
特筆すべきは、損害賠償責任が「無過失賠償責任」とされている点です。公正取引委員会の命令が確定した後、被害者は指定事業者に対して損害賠償を請求できますが、指定事業者に故意や過失がなくても、違反行為によって損害を受けた者は賠償を請求できます。
また、禁止事項に違反する行為によって利益を侵害された者は、裁判所に対して差止めを請求する差止請求権を行使することができます。これにより、公正取引委員会の命令を待たずに、迅速な救済を受けることが可能になります。
スマホ新法は既存の独占禁止法を補完する位置づけにあり、両法律は併存して適用されます。スマホ新法に違反する行為が同時に独占禁止法にも違反する場合には、両方の法律に基づく措置が取られる可能性があります。
施行後の市場変化の見通し
スマホ新法が全面施行される2025年12月18日以降、日本のスマートフォン市場には様々な変化が予測されています。
短期的には、サードパーティアプリストアの登場、一部アプリの価格変動、ユーザーへの選択画面の表示開始、デフォルト設定変更機能の改善といった変化が見込まれます。
中長期的には、新規参入企業によるイノベーション、アプリストア間の競争激化、手数料体系の見直し、新たなビジネスモデルの登場といった変化が予測されています。
残された課題と今後の展望
スマホ新法の施行後も、いくつかの課題が残されています。
セキュリティと利便性のバランス については、サードパーティアプリストアの開放によりセキュリティリスクが高まる可能性があり、ユーザー保護とイノベーション促進のバランスをいかに取るかが課題となります。
実効性の確保 については、巨大IT企業が様々な手段で規制を回避しようとする可能性があり、公正取引委員会による継続的な監視と必要に応じた追加措置が求められます。
国際的な整合性 については、EU、アメリカ、その他の国々でも類似の規制が進んでおり、国際的に事業を展開する企業にとっては各国の規制に対応するコストが増加する可能性があります。その負担がユーザーに転嫁されることも懸念されています。
技術の進歩への対応 については、スマートフォン市場は急速に変化しており、法律が技術の進歩に追いつけなくなるリスクがあるため、定期的な見直しが必要です。
専門家の見解と評価
スマホ新法に対しては、専門家からも様々な意見が出されています。大阪大学の安田洋祐教授は、スマホ新法が「不完全競争」(独占・寡占)の問題を過度に重視している可能性があると指摘しています。アプリストアの手数料はアプリの売り上げに対して比例的に課せられるため、アプリ価格にそもそも転嫁されにくく、仮に既存ストアの手数料が引き下げられても、消費者への恩恵は短期的には限定的との見方を示しています。
また、「市場の競争の公平化」という目的が、利用者目線ではなくアプリ開発者(企業)目線になっているのではないかという指摘もあります。
施行後にユーザーがすべきこと
スマホ新法が2025年12月18日に全面施行された後、一般ユーザーはいくつかの対応を検討する必要があります。
サードパーティアプリストアの利用判断 については、App StoreやGoogle Play Store以外のアプリストアが利用可能になりますが、利用するかどうかは慎重に判断することが重要です。新しいアプリストアを利用する場合は、そのストアの運営会社の信頼性やセキュリティ対策を確認しましょう。
セキュリティ意識の向上 については、公式ストア以外からアプリをダウンロードする際はマルウェアのリスクが高まる可能性があります。不審なアプリのインストールを避け、アプリの権限設定を確認する習慣をつけることが大切です。
デフォルト設定の見直し については、新法施行後はブラウザや検索エンジンのデフォルト設定を簡単に変更できるようになります。自分の使い方に合った設定になっているか確認してみましょう。
安全にスマートフォンを使い続けるために
スマホ新法により選択肢が広がる一方で、セキュリティリスクも高まる可能性があります。安全にスマートフォンを使い続けるためには、いくつかのポイントを心がけることが大切です。
セキュリティを重視する場合は、これまで通りApp StoreやGoogle Play Storeを利用するのが最も安全です。公式ストアでは厳格な審査が行われており、マルウェアが混入するリスクは比較的低くなっています。
スマートフォンのOSやアプリは常に最新版にアップデートしておくことも重要です。セキュリティパッチが適用され、脆弱性が修正されます。メールやSNSで送られてきた不審なリンクをクリックしたり、見知らぬ発信元のアプリをインストールしたりすることは避けましょう。重要なアカウントには二要素認証を設定し、セキュリティを強化することも効果的です。
子どものスマートフォン利用について
保護者の方は、スマホ新法施行後の子どものスマートフォン利用について、より注意を払う必要があります。
サードパーティのブラウザやアプリストアが利用可能になることで、既存のフィルタリングサービスが正常に機能しなくなる可能性があります。利用しているフィルタリングサービスの対応状況を確認することが大切です。
iPhoneの「スクリーンタイム」やAndroidの「ファミリーリンク」などの機能を活用し、子どものアプリインストールや利用時間を管理しましょう。インターネットやアプリの安全な利用方法について、子どもと話し合う機会を設けることも重要です。
スマホ新法が目指す未来
スマホ新法(スマートフォンソフトウェア競争促進法)は、AppleとGoogleによるスマートフォン市場の寡占状態を是正し、公正な競争を促進することを目的とした法律です。2024年6月に成立し、2025年12月18日に全面施行される予定です。
主な規制内容としては、サードパーティアプリストアの利用を妨げることの禁止、他社決済システムの利用制限の禁止、デフォルト設定の変更容易化の義務、自社サービスの不当な優遇の禁止が挙げられます。
ユーザーにとっては、選択肢の拡大や価格低下などのメリットが期待される一方、セキュリティリスクの増大や一部機能の制限といったデメリットも懸念されています。アプリ開発者にとっては、配信チャネルの多様化や手数料負担の軽減など、ビジネス機会の拡大が期待されています。
スマホ新法の施行後、日本のスマートフォン市場がどのように変化していくかは、まだ不透明な部分も多くあります。しかし、この法律が目指す「公正な競争」と「ユーザーの選択の自由」の実現に向けて、関係者全員が適切に対応していくことが求められています。公正取引委員会による運用状況や、AppleやGoogleの対応、サードパーティ企業の動向など、スマホ新法に関する最新情報に引き続き注目していく必要があるでしょう。









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